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真の宇宙膨張の発見者

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真の宇宙膨張の発見者

「宇宙は膨張している」
これを知っている方は少なくないのではないだろうか。そして、これを世界で初めて発見した人の名前もどこかで聞いたことがあるのではないだろうか。ハッブル(Edwin P. Hubble)というアメリカ人天文学者である。彼の名前を冠した宇宙望遠鏡(ハッブル宇宙望遠鏡)の素晴らしい画像(※1)も有名である。

ところが、実はハッブルよりも先に宇宙の膨張を発見した人がいたことはご存知だろうか。その人の名前をルメートル(Georges Lemaître)という。ベルギーの天文学者でかつ司祭という肩書きも持つ。本来ならば「宇宙の膨張」発見の功績と名誉はハッブルではなくルメートルに与えられるべきであったが、なぜそうならなかったのか。11月10日発行の「Nature」誌でその謎が明らかにされたので解説しておこう。

ルメートルは宇宙の膨張とその膨張速度を表す値(後にハッブル定数と呼ばれる)を1927年に発表した。但し、この論文(※2)は「Annals of the Scientific Society of Brussels」というわりとマイナーな雑誌にしかもフランス語で掲載されたので当時注目されることがなかったのだという。

そしてその2年後、1929年にハッブルが「宇宙膨張」発見の論文(※3)を発表し、広く知れ渡り、これが「宇宙の膨張を発見した初めての論文」と考えられているのである。

ところで、その2年後の1931年にルメートルの1927年の論文の英訳版が、イギリスの権威ある雑誌「Monthly Notice of Royal Astronomical Society」に掲載された(※4)のだ。この論文により、ルメートルがハッブルより先に宇宙の膨張を発見したことを知らしめることが可能だったはずであろう。しかし、なんと英訳版には「宇宙の膨張とその速度」を記述した部分が欠落していたのである。

誰かがその部分を削除したのである。誰が、何の為にそんなことをしたのだろうか。

穿った見方をすれば、
「英訳をした人間に誰かが手を回し削除させた」
「英訳後の原稿を誰かが手を加えて削除した」
と考えることもできる。そして、「その誰か」はハッブルやその近辺の人物と考えると納得がいく。

実際に、最近科学者の間でも「ハッブルが手を回し削除した」とまことしやかに語られていたのである。

そして今回、当時の英訳版の雑誌の編集者とルメートルとのやり取りの手紙が発掘され、改ざんの「犯人」が明らかになった。発掘された、ルメートルが編集者へあてた手紙にはこう記されていたのである。

"I did not find advisable to reprint the provisional discussion of radial velocities which is clearly of no actual interest, and also the geometrical note, which could be replaced by a small bibliography of ancient and new papers on the subject."

意訳すると、「ハッブルが既に発表している宇宙の膨張について、私の暫定的な議論はもはや新しい論文として面白くはないので削ります」。

つまり、英訳をしたのも、それを削除したのもルメートル自身だったというオチである。生臭い人間ドラマを期待した方には残念だが、これが真実のようである。

どうも締まりが悪いかもしれないが、この話に教訓があるとすれば、「英語は勉強しておいた方が良い」ということだろうか。

ちなみにこの話題が先日、私が在籍する研究室と宇宙論の研究室の合同セミナーで話題にのぼったとき、「件の『ルメートルから編集者への手紙』が実はハッブルの手によって書かれていたかもしれないではないか」という意見が出たということを、最後に一応付け加えておくことにする。

荻原 正博(名古屋大学・理学博士)

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