誰だって、本当のことを知りたい。世界をにぎわす様々な知らせを、伝わる言葉で。

ホーム

宇宙を知る

ガス円盤と中心星を繋ぐ 2本の架け橋

最新の研究結果を、わかりやすく伝える

ガス円盤と中心星を繋ぐ 2本の架け橋

新年早々2013年01月02日、英国の権威ある科学雑誌 Natureにビッグニュースが発表されました。なんと、円盤ガスを中心星に橋渡しする惑星の姿がとらえられたのです。

「えっ、何が、どうスゴいの?」と思われた皆さん。
今回はこのニュースの凄さを皆さんにお伝えしたいと思います。

HD142527の星周円盤をアルマ望遠鏡でミリ波観測

地球から約140パーセク (約456光年)離れた場所にある、恒星 HD142527が今回のターゲットです。HD142527は太陽の2.7倍の質量 (Herbig Ae/Be型星に分類されます)をもち、Sco OB2(※1)に属しています。

昨年の2012年6月2日、チリ大学 天文学科のCasassusらのグループ(※2)は、 チリの標高約5000mのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡(※3)(図1)を用いて、HD142527の星周円盤(恒星の周囲を取り囲むガスの円盤)を電波(※4)で観測しました。

図1 2011年 7月末にパラボラアンテナ16台が設置された時の写真 ©ALMA@NAOJ

HD142527の星周円盤の姿

HD142527の星周円盤については、これまでにもハワイのマウナケア山頂にあるKeck望遠鏡やGemini望遠鏡、日本のすばる望遠鏡を用いた近赤外線での観測が実施されてきました。

HD142527の星周円盤は、2つのガスの円環(10AUより内側と140AUより外側)をもち、10AUから140AUの間にすっぽりと穴の空いた領域(= 空隙)があることが知られていました (※5)(図2をご覧下さい)。この大きな穴の成因として、暗いために見えていないが、惑星が存在するからではないかと考えられています。

図2 HD142527の星周円盤を真上から眺めたイメージ図

HD142527のガス円盤は私たちに対して、西側が手前、東側が奥となる形で約20°傾いています。図3は、ほぼ真上から星周円盤を撮像された図です(上:北方向, 左:東方向)。中心の黒い穴は、円盤を観測するために隠した恒星(HD142527)です。左右に非対称な二つのバナナ状の構造、北西側に一つの渦状腕が見えますね。この渦状腕の形状と向きから、円盤にあるガスは時計周りに回転していることが分かっています。

図3 HD142527の星周円盤をほぼ真上から近赤外線で撮像した時の画像

それでは、今回の観測で新たに何が分かったのでしょうか?
実は、ただ大きな穴と思われていた空隙の詳細な様子が明らかになりました。

円盤ガスの分布と流れ:フィラメント構造

さて、皆さんにはあまり馴染みのないホルミルイオン(HCO+)が今回の観測の主役(※6)です。分子雲や円盤ガスの分布を調べる時には、宇宙に豊富にある水素やヘリウムではなく、一硫化炭素(CS), 一酸化炭素(CO), シアン化水素(HCN), ホルミルイオン (HCO+)といった少し変わった分子・イオンを観測し、どの場所に、どのくらい存在するか調べます。今回は HCO+ からの電波(※7)強度が測定されました。図4が結果です。

図4 HD142527の星周円盤の電波強度分布:(緑) HCO+, (赤)塵, (青) CO ©ALMA, Casassus et al.(2013)

目を凝らして見て頂くと、中心の明るい場所に左右から薄く細長い緑色の線が伸びているのが分かります。中心の明るい場所は恒星 HD142527(と内側のガス円盤)です。そして、一際明るく輝く外側の円環が外側140AU以遠にあるガス円盤です。

ガス(HCO+ )から放出される電波の波長(※8)から、ガスの動く速度と向きも分かりました。この空隙を流れる二本の線は、外側から内側(恒星)へとガスが流れる姿を表していたのです。著者のCasassusらは、空隙の二本の流れのなかには、きっと流れ来るガスを少しずつ食べながら成長する惑星の姿が隠れていると考えています。 こうしたことは、理論的にも起きるはずと考えられています。 もし、本当に惑星が隠されているとしたら、「円盤のガスを恒星へスルーパスをする惑星」、非常にワクワクしますね。

もしかすると皆さんのなかには、「こんな観測、初めてなの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実はこれまでにも、円盤から恒星へガスが流れ込む姿は観測されたことがあります。2011年、Pietuら(※9)は二つの恒星(=連星) GG Tau周りの星周円盤から連星GG Tauへガスが流れ込む様子をとらえました。しかし、惑星、しかも成長途中の惑星があるかもしれないような状況は今回が初めてです。

もう一つ興味深い点があります。図4の赤色は塵の分布を示しているのですが、北側(上側)に塵が、馬蹄状に濃集していることが分かりました。この原因については、よく分かっていませんが、一つの可能性として隠れている惑星の影響ではないかと考えられています。

それでは最後に、今回の観測から期待される星周円盤の想像図をお見せして、話を終えたいと思います。

図5 大きな穴に惑星らしき天体が左右に1つずつあり、これらの惑星が外側の円盤から恒星にガスを橋渡しする姿 (想像図) ©ALMA, Casassus et al.(2013)

堀 安範(国立天文台 理論研究部)

  • ※1 Scorpius-Centaurus Association :さそり–ケンタウルス 星群落と呼ばれ、重い恒星であるOB型星(太陽はG型星)を多く含む星の集団
  • ※2 Casassus et al., Flows of gas through a protoplanetary gap, Nature, 2013
    (URL) http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature11769.html
  • ※3 アルマ望遠鏡は現在も建設中で、最終的に66台のアンテナを設置されるのですが、当時は稼働していた16基の電波干渉計が使用されました。
  • ※4 バンド7という周波数275GHz-373GHz, 波長0.8mm-1mmのミリ波帯
  • ※5 穴あきのガス円盤は、円盤ガスが枯渇する途中にあるという考えから、「遷移円盤」と呼ばれています。
  • ※6 HCO+ 以外に、一酸化炭素(CO)分子や塵からの電波も観測しました。空隙に希薄なCO分子のガスが検出されましたが、 今回こちらは主にガスの温度分布を知る手掛かりになりました。
  • ※7 厳密には、分子の回転遷移による輝線で、CO (J=3-2), HCO+ (J=4-3)と表記されます。
  • ※8 救急車が近づいて来る時にはサイレン音は高く聞こえ、遠ざかる時には低く聞こえます。これをドップラー効果と呼びます。このドップラー効果は光(電波も光の一種)でも起きます。光が近づいてくる時は青い側、遠ざかる時は赤い側へと(波長が)変化します。
  • ※9 Pietu et al., High resolution imaging of the GG Tauri system at 267GHz, A&A, 2011

一覧へ戻る

  • Clip to Evernote
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページトップへ戻る