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ボイジャー:太陽圏からの脱出!?

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ボイジャー:太陽圏からの脱出!?

これまで暮らしていた場所とは全く違う世界を訪れた時、皆さんは何を思い、感じただろうか。初めての海外旅行では少なからずのカルチャーショックを受けたことだろう。地球を飛び出した宇宙飛行士は、そこに広がる情景に、筆舌に尽くし難い感動を覚えるという。

我々から180億km以上離れた場所で、いままさに「太陽圏」から飛び出そうとするものがいる。それは36年前に地球を飛び立ち、未踏の地を開拓し続けている。今回の『理の惑星』コラムは太陽に関する専門家である松本琢磨氏に、「太陽圏」を超えゆく探査機について解説して頂く。


2012年8月、無人惑星探査機ボイジャー1号がついに太陽圏外に脱出したと報じられた。果たしてこれは本当だろうか?NASAボイジャーチームの最新の見解は太陽圏脱出に関して否定的だ。

ボイジャー1号は1977年9月5日に打ち上げられた、NASAによる太陽系外惑星、および太陽系外の探査機である。木星や土星を観測したのち、土星でのスイングバイを経て2012年8月25日現在、太陽から183億kmの場所を 時速 (※1)秒速17kmで巡航中である。現在、地球から最遠方に存在する人工物であり、宇宙線検出器を搭載した現役の科学探査機としても最新の成果を挙げ続けている。そのボイジャー1号が2012年8月に異常な宇宙線変動を捉えた。これはボイジャー1号の太陽圏脱出の可能性を示唆するが、太陽圏脱出の真偽を巡っては多くの科学者が白熱した議論を交わしているところである。本記事ではこの問題について解説を加えたいと思う。

そもそも太陽圏というのは何だろうか?太陽からは太陽風と呼ばれる高速のプラズマ流が絶えず吹き出し、太陽の周囲を満たしている。さらにその外側には、銀河系内に満たされた太陽以外に起源を持つ星間物質が存在している。太陽圏とは、太陽由来の物質で満たされた領域のことであり、非常に薄い境界層を経て星間物質とが接していると考えられている。太陽圏とその外側の顕著な違いは、その宇宙線環境にある。太陽圏内では内部で加速された低エネルギーの宇宙線が支配的である一方で、太陽圏外は超新星衝撃波等により加速された高エネルギーの宇宙線に満たされている。ボイジャー1号が捉えた異常な宇宙線変動は当初、太陽圏脱出に伴う宇宙線環境の変化に由来すると考えられていた。

宇宙線の変動は劇的であり、ボイジャー1号が何がしかの境界を通過したことは確かだろう。それにも関わらず、ボイジャーチームが太陽圏脱出を宣言しない理由は磁場データにある。太陽圏は、太陽が持つ固有の磁場によって満たされている。ボイジャー1号が本当に太陽圏を抜けたのであれば、磁場の方向が太陽固有の磁場からずれるはずであるが、今回の宇宙線変動に際してその兆候は見られなかった。これがボイジャー1号がまだ太陽圏内にいると考えられている理由である。

カリフォルニア工科大学のストーン氏は、ボイジャー1号が太陽圏を脱出するのは早くてあと数か月、遅くても数年と予測している。ボイジャー1号に搭載されている原子力電池の出力低下に伴い、稼働が停止するのは2020年以降。太陽圏脱出の報はいつになるのだろうか。気を揉まれるところである。

松本 琢磨(名古屋大学 理論宇宙物理学研究室) 

※1 2016年1月5日訂正

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