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PLANETPLANETシリーズ第3回 太陽系形成の新モデル、Grand Tack仮説

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PLANETPLANETシリーズ第3回 太陽系形成の新モデル、Grand Tack仮説

今回の『理の惑星』コラムは、アメリカ人研究者によって執筆された記事を翻訳してお届けするPLANETPLANETシリーズ第3回です。第1回第2回もどうぞ。


原文:The Grand Tack

最近、米仏の研究者たちは「Grand tackモデル」と呼ばれる、太陽系形成の新しいモデルを発表しました。「なぜ、いま太陽系形成の新しいモデルが必要なのか?」「以前のモデルのドコがダメだったのか?」と、皆さん、思われるかもしれません。

火星が作れない太陽系形成モデル

まず、従来の太陽系形成モデル(京都モデルとも呼ばれます)から振り返ってみましょう。従来のモデルでは、小さな天体(※1)同士が互いに衝突を繰り返して、岩石惑星が誕生したと考えられています。こうした描像は太陽系の様々な特徴、例えば、地球や金星のサイズや軌道、そして形成時間を非常にうまく説明できます。しかし、うまく説明出来ないことが一つありました。それが火星の存在です。

太陽系には、私たちの知らないことはまだまだ、沢山あります。しかし、8個あるうちの1つの惑星(火星)の存在を説明出来ないとなると、それは大問題です。まして、きちんとサイズまで分かっている火星を作れないようでは、モデルとして正しいとは言えません。

上図は、木星より内側の太陽系の姿を表したイメージ図です。厳密ではありませんが、惑星の大きさは実際のサイズ比に対応しています。それぞれの惑星の大きさを見比べると、火星はとても小さいことが分かります。火星の質量は地球の約1/10、半径は地球の約1/3程度しかありません。

さて、こちらが従来の太陽系形成モデルの結果です。

シミュレーションの火星は地球と同じくらい大きく、小惑星帯には、太陽系には存在しない、取り残された原始惑星まで見られます。また、水星も存在しませんが、こちらについては別の機会に紹介します。従来のモデルでは、現在の火星軌道付近に岩石物質が大量にあり過ぎることが問題でした。火星は天体同士の衝突を回避出来ず、成長し過ぎてしまうからです。火星領域の固体材料物質を少なくすれば確かに火星は作れるのですが、今度は他の箇所がうまくいかなくなってしまいます。何か工夫が必要なのです。

木星・土星の大移動

そこで、「火星の小さい理由が木星にあるとしたらどうでしょうか?」
太陽系の外側領域では、木星の重力は絶大です。しかし、遠く離れた場所にある木星が火星のサイズを決めたと考えるのは、いささか信じ難いです。それでは、昔、木星が現在よりも太陽にずっと近い場所にいたとしたら、どうでしょうか?これこそが私たちが思い付いた新しいアイデアです。

若い太陽の周りに分厚い原始惑星系円盤(固体塵やガス成分から構成される)がまだ存在した太陽系形成初期に、巨大ガス惑星である木星は形成されました。他の惑星もすべて、この原始惑星系円盤から誕生しました。内側の岩石惑星は木星や土星よりも遥かに小さいのですが、形成には木星や土星の約10倍長くかかったはずです。そして、木星・土星の形成後、木星・土星の軌道は周囲のガスの影響を受ける段階があったはずです。周囲のガスは、木星・土星の軌道を外側または内側へ動かします。この現象は「惑星移動」と呼ばれています。

惑星移動こそがカギになります。木星単体では太陽方向へ移動しますが、内側に重い木星、そして外側に土星がある時、木星と土星は反対方向に移動します。

図1は、周囲のガスに埋もれた木星・土星の姿を模擬したシミュレーション結果です。

図1 木星・土星は白○、中心星の黒い穴は太陽です。色はガス密度を表しています(黒→赤:密度は低→高)。波模様は惑星の重力で励起された密度波と呼ばれる密度揺らぎのパターンです。木星・土星の軌道付近の環状の暗い領域は、木星・土星の重力で周囲のガス粒子が跳ね飛ばされた結果です。 © Arnaud Pierens

太陽系形成の新モデル:Grand Tackモデル

ここからは、新しい太陽系形成モデルを見て行きましょう。土星より先に誕生した木星が太陽へ向かって移動を始めます(図2a)。そのあと、土星が先に移動を開始した木星に追い付き、木星と土星は再び、外側へ引き返し始めます(図2b)。もし、現在の火星軌道付近まで木星が移動して来たとすると、木星・土星の重力の影響で内側の岩石物質の分布は火星軌道以内に制限されます。木星・土星は周囲のガスが消失するまで外側へ移動し続け、やがて現在の軌道近くまで戻ります。

図2 Grand Tackモデルと小惑星帯の分布 © Kevin Walsh

現在の火星軌道付近まで木星が移動して来るため、火星領域の固体材料物質は枯渇してしまいます。それでは、火星はどうやって誕生したのでしょうか?材料物質がほとんど枯渇した領域で形成されることで、小さな火星になります。一方、地球や金星は岩石物質が豊富にある領域で形成されます。

こうした一連のシナリオこそが、本記事のタイトルにある「Grand Tack モデル」(あえて、日本語訳すれば、木星・土星の大移動説)です。Tackとは、航海用語で「風上に進む船首の向きを変える(U-turnする)」を意味します。木星が移動方向を変えるU-turn場所こそがTackに対応します。

Grand Tackモデルと小惑星帯

Grand Tackモデルは、内側の岩石惑星の形成だけではなく、小惑星帯の分布もうまく説明できます。小惑星帯の内側領域では、乾燥した石質小惑星(はやぶさ探査機がサンプルリターンをしたイトカワに代表されるS型小惑星)が多く、外側領域には始原的な含水鉱物が見られる炭素質小惑星(C型小惑星)が多いことが観測から知られています。木星・土星が往復する際、内側に存在する大量のS型小惑星は重力散乱を経験します。往路で外側へ弾き飛ばされたS型小惑星は、復路でさらに遠くまで飛ばされます。一方の元々、外側にいたC型小惑星は復路の際に、内側へ弾き飛ばされます(図2c)。結果、小惑星帯の内側領域ではS型小惑星、外側領域ではC型小惑星が多くなることになります。

最後に、Grand Tackモデルでは地球の水の起源についても説明できる可能性を秘めています。しかし、それはまた後ほど!(第5回の記事をお楽しみに)


PLANETPLANETシリーズ、次回は「ハビタブル惑星=生命が存在できる惑星?」です。このシリーズで重要なキーワード「ハビタブルゾーン」を解説します。沢山の生命を宿している地球軌道は、実はハビタブル(=生命居住可能)でないことを知っていましたか?

訳者:堀 安範(カリフォルニア大学 サンタクルーズ校)

(参考)
Grand Tackモデルの原著論文(英語):Walsh et al 2011
Grand Tackモデルのムービー:Grand Tack website

  • ※1 「微惑星」と呼ばれる小惑星サイズの天体と「原始惑星」と呼ばれる火星サイズ(地球質量のおよそ1/10)

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