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100億年の奇跡 第一話(物質循環)

物語に隠された、惑星の秘密

100億年の奇跡 第一話(物質循環)

賢史はIT関連の会社で働く勤続1年の新人社員。ごく普通の家庭に生まれ、それなりに遊び、それなりに勉強し、大学時代までは平和で幸せな人生だった。そんな賢史の人生の歯車が狂い始めたのは、 大学4年の時だったようだ。

賢史はどちらかといえば引っ込み思案な方で、ここぞという時に上手く自分をアピールすることが苦手だった。そのためか、就職活動の選考にはことごとく落ちてしまった。『不採用』の連絡が来る度に、「僕って社会に役に立たない人間なんだな」という気持ちが植えつけられてしまっていて、就職活動が長引けば長引くほど思うようにいかなくなっていた。最終的に就職先が決まったのは、卒業間際の3月、就職先はIT関連の企業だが名も無い下請けの会社である。賢史は今そこで働いている。

大学時代までの平和に暮らしていた賢史の生活は、就職活動での失敗から狂い始め、今はもう悪化の一途をたどっている。もともと入りたかった会社ではないので、仕事内容を覚えるのにも苦労し、 精一杯やってもどうしても仕事ができないでいる。入社したての頃は、「そのうち慣れるから頑張ってくれよ」と優しく接してくれていた上司からも、最近は事あるたびに嫌味を言われる。

「君、まだこんなこともできないの?」 「仕事を覚えるのと、辞めるのとどっちが先になるのかねえ。」 こんな言葉を何のためらいもなく言う上司、どうすることもできずただうつむいている賢史、それをみてクスクス笑う女子社員、そんな光景が日常になってしまっている。
同期ともうまくなじめず、昼食時には同期はみんなで連れ立って食事しているようだが、賢史はコンビニ弁当を自分のデスクで一人で食べるのだった。そんな日々がただ続いていて、会社に行くのが苦痛で仕方がなくなっていた。

そんな中、決定的な事件が起こってしまった。大学時代の親友である友紀が交通事故で亡くなった。 賢史と友紀は大学入学時に知り合い、お互いにふざけあえて、何かあるたびに飲んで語り合う、そんな仲だった。2人が就職してからも、休日にはたまに会って、お互いの会社の愚痴を言い合っていた。友紀が話を聞いてくれたからこそ賢史はつらい会社勤めに耐えられていたのかもしれない。
そんな賢史の心の支えだった友紀がいなくなってしまった。そこで、賢史をつなぎ止めていた糸が完全に切れてしまった。「もう、いいや」賢史はそう思った。

告別式が終わり、賢史は気が付くと建物の屋上にいた。そこは友紀と出会い、楽しく4年間を過ごした大学。そのなかの、賢史が所属していた学科の建物の屋上だった。「いま思うと、あの頃は幸せだったな。好きじゃない仕事なんてしなくてよかったし、嫌味を言う上司も、いじめられている僕をみてあざ笑う女子社員もいなかった。代わりに、わかってくれる友紀がいた。」そう淡々と考えていた。

涙も出てこない、感情など持ちようがなかった。限界だった。「でも、友紀もいなくなったんだ。...もう...いいや」そう思うと同時に、賢史は吸い寄せられるように屋上の外に足を踏み出したのだった。

第二話へつづく

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