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100億年の奇跡 第二話(物質循環)

物語に隠された、惑星の秘密

100億年の奇跡 第二話(物質循環)

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目を覚ますと賢史はベッドで寝ていた。周りには同じ形のベッドがいくつかあり、それぞれに見知らぬ人が横たわっていた。

そこは病院だった。幸か不幸か、一命を取り留めていたらしい。医者が言うには、全身に負った怪我は半年で完治し、仕事にも復帰できるという。
しかし、賢史は既に生活を送る気力を完全に失ってしまっていた。

それからはただ無意味に日々が過ぎていった。一日中ベッドに横たわり、天井を眺め続けているだけ。話しかけられても返事すらせず、完全に無気力な賢史には、医者ですら話しかけなくなっていった。

しばらくして、賢史の隣りのベッドにいた患者が退院し、新しい患者が入院してきた。歳は50歳くらいだろうか、「働き盛りで仕事のできる」雰囲気がにじみ出る、おじさんである。とても入院が必要だとは思えないほど元気で、賢史にもよく話しかけてくる。

「賢史、調子はどうだ?」

しかし、賢史は返事もしない。おじさんは少し悲しい顔をしていたが、賢史は気にしなかった。

おじさんが入院してきて数週間経っても、賢史に元気に話しかけるおじさんの態度は変わらなかった。その代わりに、賢史の気持ちは少しずつ変わりはじめてきていた。
相変わらず、一日中ずっとベッドの上で天井を眺めて過ごす生活には変化はなかったが、おじさんの呼びかけには少しずつ返事をするようになってきていた。賢史のやる気は失われたままだが、おじさんの元気さには確実に惹かれてきていた。

賢史の体は次第に回復してきており、退院の日も近づいてきていた。ある日、初めて賢史からおじさんに話しかけた。

「おじさんはいつも元気ですけど、どういう病気なんですか。」

おじさんは喜びと悲しみの入り交じったような顔になり、しばらくしてこう答えた。

「私は重い病気なんだ。だから、元気にしているんだよ。」

予想に反した答えで賢史にはその意味がよくわからなかった。その意味を問おうとする賢史を遮るようにおじさんは続けた。

「賢史はもうすぐ退院らしいな。退院したらどうするんだ。」

質問にちゃんと答えてくれないことに釈然としなかった。少しムッとして賢史は答えた。

「もう諦めたんですよ。何もかもがうまくいかないんです。もう一人なんですよ...。だから、もういいやって...。きっとまた同じことをするんだと思います...。」

途端におじさんの表情が変わった。賢史を睨めつけるような厳しい顔をし、無言で横になり布団をかぶってしまった。

それ以来、おじさんから話しかけてくることはなかった。

第三話へつづく

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