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ハッピー・ロンリー・クリスマス 第一話(スノーライン)

物語に隠された、惑星の秘密

ハッピー・ロンリー・クリスマス 第一話(スノーライン)

アイは怒っていた。

今日は終業式の日で学校は午前中でおしまい。
その後は友人とひとしきり遊んだ後、夜にはパーティをしてケーキを食べて……そんな時間を楽しみにしていたのに!

窓に降り掛かる雪を吐息で融かしながら、アイは不機嫌そうに足をバタつかせた。

本日、12月24日 クリスマスイブ

今朝に両親から聞かされた話によると、急な仕事が入ってしまって、どうしても今夜から明日まで泊まりがけで終わらせなければならないらしかった。
早い話が、クリスマスパーティの中止宣言だった。

 

ひとしきり喚いてみたが、大人の事情に子供は無力であった。

 

学校に着いてからも、怒りに任せて手当たり次第に物をぶん投げてしまいたくなったし、期待を裏切られたショックに泣きそうになったりもした。
実際、以前よりも良くなっていた成績表を、貰ったそばから泣きそうな顔で思いっきりぶん投げてしまい、先生にこれから先の人生の長さについて優しく説かれてしまった。

 

クリスマスという日は、家族で集まって聖書に書かれている人の誕生をお祝いして、深夜にはサンタクロースとかいう別の星系からやってきた超科学人がトナカイという名の飛翔物に乗って人里の上空を縦横無尽に飛び回り、粗品を配りまくるらしい。時々アメリカ軍のレーダーにも引っかかるという噂だ。
しかし我が家では、そのような不審な輩への対策は万全とばかりに戸締まりには余念がないので、未だかつてサンタクロースとのコンタクトには成功していない。
聞けば、友人達も、過去に幾度となく接触を試みたものの、大抵は両親に阻まれてしまうらしく、未だ実態を掴んだ者はいないらしい。ほら見ろ、クリスマスなんて全然面白くないじゃないか。

そう思うことにしようと考えたものの、なんだかこの設定の方が面白そうになってきてしまって余計に腹が立った。

--

 

結局、夕方に友人と別れて帰宅したものの、まったく何をする気も起きず、家路に就いたときに降り出した雪を窓越しにぼけっと眺めているだけだった。
リビングでは石油ストーブが暖かい火を灯していた。
一度、母から電話があって、今日の不在を謝罪していたが、アイには無意味だった。

食事はとりあえず用意してあったみたいだが、余計に侘しくなるので手を付けたくなかった。
コンビニへ行って、普段は禁止されている買い食いなどをしてみようと思った。

 

最寄りのコンビニまでは近道を通っても15分くらいかかる。
近道に通る森林公園にすでに人の気配はなく、まばらにある街灯に照らされる土の地面にはすでに靴が埋まるほどの雪が積もっていた。
そのまま公園を突っ切ればコンビニのそばまで出られるのだが、アイはなにやら香ばしい(だが煙い)匂いがすることに気付いて足を止めた。

「……たき火かな?」

寒いのでさっさとコンビニへ向かえば良いのだが、少し考えて、その匂いの元を辿ってみることにした。
半ばやけっぱちである。

少し道を外れて森の奥へ入ってゆくと、やがて森の奥の野営場でたき火の音が聞こえてきた。

そこは30メートル四方程度の開けた場所で、夏にはボーイスカウト達がキャンプファイヤーを行っている場所だ。
広場の中央でやや大きめに火を焚いて談笑している二人組と、その傍らにテントが張ってあるのが見えた。
あの大きい袋には、薪が入っているようだ。

気付かれないように距離を詰めると、どうやら初老の夫婦らしかった。
お揃いのダウンジャケットにマフラーと、防寒対策は抜かりない様子だが、

「なんでこんな時期にキャンプ?」

そのとき、アイの踏んだ枝が大きな音を立ててしまい、夫婦がこちらに気付いてしまった。

第二話へつづく

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