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ハッピー・ロンリー・クリスマス 第二話(スノーライン)

物語に隠された、惑星の秘密

ハッピー・ロンリー・クリスマス 第二話(スノーライン)

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アイは夫婦とたき火を囲んでいた。

あの後、アイを見つけた老夫婦はにこやかにたき火へと迎え入れ、慣れた手つきで湯を沸かし、暖かいカフェオレを振る舞ったのだった。
「ありがとう、おじさん、おばさん」
夫婦は笑ってどういたしましてと答えた。

辺りを見回すと、今も相当雪が降っているにもかかわらず、たき火の周りの決まった範囲には雪が積もっていなかった。
なんだかたき火の周りだけ穴があいているみたいだ。

「ここは暖かいね」

「そうだね、融けた雪をかぶって消えないように少し強めに火を焚いているからね」

おじさんはそういいながら薪を投げ入れる。
火は少し弱まってから、やがてパチパチ音を立てながら強くなった。

この夫婦がなぜここでキャンプなんてしているのか、
自分がどれだけ腹立たしい状況にあるのかを話そうと思ったが、たき火を囲んでいると、もう腹を立てるのも馬鹿馬鹿しく、どうでもよくなってしまっていた。
この夫婦も、この遅い時間にアイが出歩いていることを問うでもなく、言葉少なにたき火を見つめていた。

アイは改めて周囲を見回してみた。
相変わらず雪が降っているが、たき火の近くでは融けて積もらないので、だんだんと雪と地面がはっきり分かれてきた。
このまま雪が降り続けたらどうなるんだろう?あの位置に雪の崖ができるのかな?

「10年前までね」

おばさんが不意に話し始めた。

「ここには一際大きな木があったのよ。それこそ何人もの人が手をつないでやっと幹を囲えるくらいの」
「本当に?見てみたかったなあ。でも、もうここに無いってことは……」
「そう、切り倒されてしまったんだ」
「どうして?」
「いま、ここに野営場があるというのも理由の一つだけど、ある子供がその大木に登って、足を滑らせて落ちてけがをしてしまったのが決め手になってしまったんだ」
おじさんが言った。その表情からは少しだけ寂しさがにじんでいた。

「それで、切り倒されてしまったのが、10年前の12月24日なのよ」
「僕らはその木をよく知っていたからね、こうして毎年ここでキャンプをして色々思い出しているんだ」
「ふうん、なにも切り倒すほどのことじゃない気がするけどね。きっと落ちた子も切り倒されたら悲しむ気がする」
「ありがとう。そう言ってもらえるとこの木も救われるよ」
「ところで、何の木だったの?」
「モミの木だよ。サンタクロースも、突然目立つ木が無くなってしまって空でびっくりしただろうねえ」
おじさんは笑って空を見上げた。

まだ雪はやみそうにない。

最終話へつづく

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