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ゲームセンターに行こう(円盤内縁)

物語に隠された、惑星の秘密

ゲームセンターに行こう(円盤内縁)

今日も彼は、町外れのゲームセンターに来ていた。
ゲームセンターといっても、精細なグラフィックスや最新のネットワーク対戦などを売りにした流行りのものではなく、テトリスや初期の格闘ゲームなど、いつだったか流行っていたような古びた機械が雑然と置かれている、小さく寂れたものだ。当然、客はほとんど入っていない。

彼は最近はずっととりつかれたように『チキンレース』のゲームをしている。
2台の車が同時に崖に向かって一直線に走り出し、崖ぎりぎりの位置でブレーキをかけて止まる、という単純なゲームだ。
普通の人なら、2、3回遊べば飽きてしまうようなものだが、彼は1日中それで遊んでいる。

いや、彼も本当は楽しんで『チキンレース』ゲームに興じているわけではないのだ。常に眉間に皺を寄せて、難しい顔で画面を睨みつけている。
そして、ときどき彼はつぶやく。 「ブレーキなんだ。ブレーキをかければギリギリで止められるし、ブレーキが効かなかったら落ちるんだ」
実は彼は本業としている仕事のアイデアを得る為に、単純なゲームを繰り返している。

彼は長い間悩んでいた。
毎日ゲームセンターに通い、1台の古びたゲーム機の前で過ごす異様な姿は、周囲の人に敬遠されていた。
今日もいつもと同じように、夜まで「チキンレース」をしたが、新しいアイデアは得られなかった。諦めて席を立ち、出口に向かって歩いて行くと、寂れたいつものゲームセンターには似つかわしくない若い人の声が聞こえた。
ふとそちらに目をやると、中学生くらいだろうか、男女2人がなにやら古めかしい大きな箱のゲーム機に熱中していた。
昔ながらの『ピンボール』だった。ボールを弾いて高得点を狙う。盤面には様々な障害物や的があり、ところどころに穴もあいている。

彼は一瞥しただけで、通りすぎようとした。が次の瞬間、彼の顔つきが変わった。
まるでめずらしいクワガタを見つけた少年のように、頬を紅潮させ、大きく目を見開き、立ち尽くしていた。
長い間悩んでいた謎が解けた瞬間だった。
彼はゲームセンターから飛び出し、走りながら叫んでいた。

「穴ができればいいんだ!」

1687年、ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を説明したという。
およそ320年後、彼はこうしてピンボールを見て、恒星の近くに惑星を作ることに成功した。
彼は、惑星屋さん。惑星を作るのが仕事である。

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※惑星生成シミュレーターの『円盤内縁』の制限が解除されました。

【解説】円盤内縁

惑星は原始惑星系円盤という恒星を取り巻く円盤状のガスの中で成長していく。この円盤は、言わば惑星の揺りかごで、惑星の成長に様々な影響を及ぼすことが知られている。

その1つが「惑星移動」という現象である。惑星と円盤が互いに重力で引っ張り合い、その結果として惑星が円盤の中心にある恒星に向かって移動していく。

但し、この惑星移動は惑星形成理論においていくつかの問題を引き起こしている。例えば、観測結果との矛盾である。ここ10年、太陽系の外にたくさんの惑星が発見されてきた。恒星のすぐ近くをまわっている惑星も数多く見つかっている。しかし、惑星移動が生じると、惑星は円盤中を素早く移動し、その結果恒星と衝突してしまうのである。これでは、観測された恒星近くの惑星が説明できない。

観測結果との矛盾を解消する1つのアイデアとして、ガスが恒星の近くには存在しておらず、そこで惑星はガスの影響を受けず、惑星移動が止まるという考えがある。円盤には内縁があって、ガスはドーナツ状に分布しているという描像である。

詳しくはまだわかっていないが、恒星の磁場と円盤の相互作用が強い場合には、円盤はこのような形状を取り得ると考えられている。

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