理は、ささやかな日々の中で息を潜めている。この街の、無数の物語。それは惑星の秘密へと繋がる道。

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この赤がすごく楽しい(潮汐ロック)

物語に隠された、惑星の秘密

この赤がすごく楽しい(潮汐ロック)

太陽を撮るためにここに来たのだ、と彼は言った。
彼が言うには彼らの住む世界には太陽がなく、全くの暗闇に包まれているという。
我々の空にはむしろ大きく温かい太陽しかない。

しかし彼は言う。「君たちは不幸だ。こんなつまらない空しか見られないのだから」 と。
彼らの空は幾千という星々が絶えずまたたいているそうだ。
「じゃあどうして暗いんだ」と聞くと「みんな恥ずかしがりやだからな」と言った。

彼の持ってきた写真を見せてもらうと、それはまるで宝石箱をひっくり返したかのようだった。
これが空なのか。まるで信じられない。私はこんな空が広がっていたらと想像した。
その吸い込まれるような美しさに驚嘆しつつ、ふいにこみ上げてきた恐怖をかき消そうとして、私の空を見上げた。
そこには明るい太陽しかない。

彼は「影でしか見えない世界もあれば光にしか見えない世界もあるさ」と言った。
彼が住んでいたところは私たちの世界の影なのだろうか。
彼は目を薄め太陽をぼんやり見つめながら、「ここは夢に出てくる場所に似ているんだ」と言っていた。
彼はなんども太陽を撮っていた。大きなカメラで真っ赤な太陽を撮っていた。
「何がそんなに楽しいんだい?」と聞くと「この赤がすごく楽しい」と答えた。

だが彼が来てから数回も目覚めぬうちに、いつの間にか彼はいなくなっていた。
彼は彼の空の写真だけを残していった。
同時に私の夢にはよくその空がでてくるようになっていた。

私の頭上で無数の宝石が輝く。いつしか恐怖はなくなり欲望が私を支配するようになっていた。

気がつくと私は取り憑かれたかのように影の世界へ続く道を探し始めていた。

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【解説】潮汐ロック

潮汐ロックとは二つの天体がお互いの周りを公転しているときに、重力によって自転周期が公転周期と同期してしまい、最終的にいつも同じ面をお互いに向けてしまうことを言います。

片方の天体について着目すると、自転周期と公転周期がズレている場合には、重力によって歪んだ天体が公転周期にあわせようとするブレーキがかかります。

このブレーキの掛かりやすさは天体が大きいほど、また天体同士が近いほど、かかりやすくなるので、太陽からの距離や、惑星の大きさなどで働き方が変わります。

この効果が働いている身近な例は月です。
月は地球からの潮汐力の影響からいつも同じ面をこちらに向けるようになってしまったのです。
地球もいつかは月にずっと同じ面を向け続けることになるはずですが、月の重力が弱いために、そうなるには、まだまだ時間がかかります。

ちなみに、いつも地球が同じ面を月に向けるようになると、世界の半分でしか月が見えなくなってしまうことになりますね。これはすこし寂しいような気もします。

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